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農業と福祉のいい関係

京丸園 株式会社


「京丸姫ちんげん」「京丸姫ねぎ」などのオリジナルブランドを生産している農園。従業員の1/3が障害のある人です。


・・・代表の鈴木厚志さんにお話をうかがいました。
京丸園は、福祉のための農業ではなくて「農業の中に福祉を取り入れて、農業を活性化させること」を目的とした「ユニバーサル農園」を目指しているということですが。

企業ゆえに課す農業としての生産性

私たちは福祉施設ではなくて企業なので、農業としての生産性が上がらないと務まりません。障害のある人の雇用を進めるために、その人に合った仕事をつくり出し、工程の見直しや機械化など工夫を重ねました。そうしたら、生産の効率が上がり、経営の効率化も促され、業績アップにつながったのです。

1996年から毎年1名を目安に身体、知的、精神など様々な障害のある人を雇用していますが、指示や労務管理は職員がして、定植や収穫、梱包などの作業を障害のあるパート従業員が担うという態勢で仕事を行っています。

・・・苗の定植などそれぞれ技術が要りますよね。障害のある人にとって作業のハードルは高いのでは?

「作業分解」で障害のある人もできる方法を考える

代表の鈴木さん実は、以前は障害のある人は採用できないとお断りしてきたんですよ。その理由として、芽ネギの定植作業を例に、手で苗のラインを水平にするのに障害を持った方には無理だと。そうしたら、数日後に就労を支援する人(ジョブコーチ)が来て、「下敷きを使ってこうやると植わりませんか?」と提案。熟練した技術が必要だ、と思い込んでいましたから、これにはびっくりしました。

福祉の方は「作業分解」を考えます。種まきからいい野菜をつくるまで、一連の作業を分解して、どうすればいいかを考える。この発想をきっかけに京丸園で障害者雇用が始まっていきました。

・・・さきほど、業績アップにつながった、と言われましたが、具体的にはどのような変化がおこったのですか。

その人にできることを考えたら、意外な効果につながった

知的障害のある人を雇った時、ひとまずハウス内の掃除をお願いして様子を見ました。半年ほど経ったとき、「あれっ?ハウスの雰囲気が違う」と、感じました。農薬を以前のように使っていないことに気づいたのです。きれいにしておくことで、虫の発生が減ったんですよ。彼女の仕事によって、農薬を使わなくてすみ、農薬をまく労力や農薬代も削減できたのです。そして、買ってくださる方の健康にも貢献できるというおまけまでついた効果に気がつきました。

・・・そこで思いついたのが、野菜につく虫を吸い込む「虫トレーラー」なんですね。

仕事って、速く!速く!が、全てではない

まさに、「虫トレーラー」は、障害特性を生かした機械でした。「虫トレーラー」をゆっくり押して歩いていくと、吸い上げられた虫が網にたまっていきます。その機械を動かすには、知的障害のある人のゆっくり進むスピードがぴったり。自分だとセカセカしてしまって虫が獲れない。仕事って、普通は作業効率を上げることに注目しがちですが、ここでは「ゆっくり」が肝心。虫を捕まえるのに一番適しているんです。

この機械を使って、歩行訓練などリハビリなどの作業療法を兼ねた「リハビリできる農業」もいいじゃないですか。農場で作業して賃金をもらいつつ、機能訓練もできてしまうわけですよね。画期的です。、農業と福祉だけでない、医療との連携も可能ですよ。

・・・その人の障害が何かを理解したことで、うまくいったことは他にありますか。

きれいに、っていう言葉、よく使うけど

洗いものの仕事をお願いしたときのことです。「トレーをきれいに洗っておいて」と言って、1時間後に戻ってきたら、なんと、1枚を1時間ずっと洗っていたんですよ。びっくりして、彼のいた養護学校(現在、特別支援学校)の先生に話したら、「あなたの指導の仕方が悪い!」と言われたんです。どういうこと?と思いました。すると、「きれい、というのは抽象的で、障害のある人には具体的に指示しないとわからない」と。

そこで、無人で使えるトレー洗浄機を機械メーカーに作ってもらえば600万円かかるところ、「表2回、裏1回」くぐらせばきれいになる機械を、15万円で作りました。「きれいに洗って」ではなく、「表2回、裏1回洗って」と、具体的に指示を出すことで、誰がやっても簡単に理解してできる作業になりました。

・・・数値化することで、誰でもできる仕事、つまりユニバーサルな仕事を生み出せたんですね。

農業って、懐が深いんです

工業は作業工程の仕組みがすでに出来上がっていて、障害者が入りにくいですね。農業は自分のやり方や、経験と勘が重視されてきた業種ですが、家族経営で明確なしくみが出来上がってない分、臨機応変に対応ができます。工業は機械に人を合わせますが、ここでは人に合わせた機械をつくり、人に合わせた仕事をつくりだすことができます。

障害者を受け入れたことで変わったもの

障害のある人のひたむきに働く姿勢は、職場にいい影響を与えます。作業が遅いので早めに来ると、社員はそれを見て、彼らが来る前に来て準備しようと好回転になる。彼らの作業能力は健常者より低いかもしれませんが、彼らがいることの全体の効果はあります。企業は個人戦ではなく総合力勝負ですから。

根底的なところでは、農業を変えていきたい。日本の農業が野菜を生産するだけではなく、人の健康も創造するものにしていきたいと思っています。

参照:NPO法人「ユニバーサル園芸ネットワーク」

会社データ
事業内容
農業(水耕栽培 80a、無農薬水稲栽培 120a、ユニバーサル農園)
活動分野
農業、障害者就労
活動対象
障害のある人、一般
活動地域
浜松市南区
設立年
2004年
スタッフ
62名、うち22名が障害のある人
資本金
800万円
代表者名
代表・園主 鈴木 厚志(すずき あつし)
連絡先
(住所)〒435-0022 浜松市中央区鶴見町380-1
(電話)053-425-4786
(FAX)053-425-5033
(Eメール)kyomaru@ck.tnc.ne.jp
(ホームページ)http://www.kyomaru.net/
(2012年1月現在の情報です)